ファーレンハイト番外編 / おにぎり派の忠告
 ◇


 玲緒奈さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながらパソコンで作業をしているが、視界の端に振り向いて俺を見る玲緒奈さんがいた。
 何かと思い視線を玲緒奈さんにやると、「本城ってさ、サンドウイッチ好きだよね?」と言う。

 最近は卵のサンドウイッチにチキンを挟んで食べるのが好きだ。チキンを挟んだだけなのに、満足感の得られるサンドウイッチになる。
 それは署の隣のコンビニではなく、少し離れたコンビニの女性店員が教えてくれた。
 もちろん俺はその女性店員に恋をした。でもまたすぐに加藤さんに見つかり、「バカなの?」と言われた。

 加藤さんの言う『バカなの?』は、一般女性の言う『こんにちは、良いお天気ですね』と同じ意味だと松永さんから言われて納得しているが、加藤さんは、「お釣り返す時に男性客の手のひらを包むような店員って、私らの仕事増やしてると思わないの?」と続けた。

 確かにそうだ。色恋営業のようなものだ。
 勘違いした男性客がストーカーとなり、性被害や刃傷沙汰になって俺らが臨場する。

 ――仕事が増えて、休みが減る。最悪だ。

 そうやって俺の恋はまた秒で終わったが、サンドウイッチにチキンを挟むライフハックには何の罪もないから、俺はチキンを挟んでいる。

「サンドウイッチ好きです」
「近くに小さいパン屋さんあるの知ってる?」

 捜査員用のマンション近隣は観光地で、肉まんや甘栗なら売っているが、パン屋はあっただろうか。近隣を思い出しても記憶が無い。

「知らないです」
「学校に納入してるパン屋さんみたいでさ、コッペパンとかロールパンに卵とかコロッケとか挟んである、なんか懐かしい感じのパンしか無いんだけど、美味しいよ」
「そうなんですか」

 ちょうど昼時だ。玲緒奈さんに教えられたパン屋に俺も行ってみる事にした。


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