別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~

5. 向き合うとき

 瞳が家に帰ったときには拓海はすでに出社していていなかった。瞳は昨日いろいろと放りだしてしまった分、仕事に家事にと忙しく動き回った。忙しくしていたほうが余計なことを考えなくてよかったというのもあっただろう。

 けれど、夜になって拓海が帰ってくると嫌でもそのことが頭をよぎった。

 本当はすぐにでも拓海に尋ねるべきなのだろうが、やはり怖くて何も言いだせない。普通の会話すら怖い。瞳はできるだけ平静を装おうとしていたが、瞳がいつもと同じ状態でないことは拓海にばれてしまっていたらしい。瞳がベッドに入ると、拓海に心配の声をかけられてしまった。

「瞳。どうした? 何かあったか?」
「……」
「もしかして具合悪い?」
「ううん。大丈夫……何でもないよ」
「本当に? 何か無理してないか?」

 これは聞きだすチャンスだろう。優しく問いかけてくれる拓海に全部言ってしまいたい気持ちにもなる。もうこのまま言ってしまおうかと瞳は何度か口を開こうとしたが、どうしても目的の言葉は出てこなかった。ただのその場しのぎの言葉しか出てこなかった。

「……大丈夫」
「何かあるなら言えよ? 心配だから」
「……うん」
「今日はもう寝ようか。しっかり睡眠とれ。な?」
「うん」
「おやすみ、瞳」
「おやすみ」

 拓海が追及してこないことに瞳は安堵しながらも、まったく晴れないモヤモヤに苦しんだ。
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