別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
第三章 今さらな恥じらい Side瞳

1. 招待

 二週間ぶりに自宅に帰った日、瞳は自分の発言を悔いていた。拓海に余計な一言を言ってしまったと実家へ帰る道すがら反省していた。あのとき、言いたかったのは片づけてないなんてそういうことじゃなかった。『でも、拓海はやるべきことはやってくれてるね』と本当に言いたかったのはそれだった。

 確かに、瞳がいる頃に比べれば、片づいてない部分はあった。でも、わざわざ指摘するほどのものではなかったし、本当に手入れすべきところはちゃんと手入れされていた。

 聖と暮らしはじめてから、拓海との暮らしはもっとずっと楽だったと気づいて、ちゃんと拓海が瞳に寄り添ってくれていたとわかっていた。だから、あのときはダメなところじゃなくて、拓海がやってくれたことのほうに先に目がいったのだ。たまたま最後に片づけられてないところに目がいったが、それを責めるつもりなんてまったくなかった。ただ拓海っぽいなという感想が浮かんで、それがあの言葉として出てきただけだった。

 でも、冷静になって考えてみれば、あんなふうに言われたら面白くなかっただろうと思う。文句ばかり言われたら誰だって嫌なはずだ。もっとちゃんと考えてから言葉にすればよかったと瞳は後悔していた。

 だから、拓海から謝罪の電話が来るなんて思わなくて本当に驚いた。確かに冷たい態度を取られたことはショックだったが、自分の言った言葉が原因なのだから、そうされても仕方のないことだったと思っていた。

 それなのに、拓海は瞳のためにわざわざ電話してまで謝ってくれて、瞳は本当に嬉しかった。久しぶりにちゃんと自分のことを見てもらえたような気がした。もしかしたら、今ならもっと素直にいろいろ話せるんじゃないかと思って、そのまま会話を続けようとしたが、その電話はあっさりと終了しまった。

 消化不良なまま電話を終えてしまったから、瞳はしばらくの間拓海のことが頭を離れなかったが、聖との忙しい日々に翻弄されていれば、拓海のことを考える余裕はまただんだんとなくなっていった。

 そうして別居を始めて一ヶ月半が過ぎた頃、聖のある思いつきがきっかけで、瞳と拓海の関係は変わりはじめた。
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