女流棋士はクールな御曹司と婚約したい
○吉野総合病院、院長室。

翡翠と院長吉野慶司が向かい合って座っている。

(吉野慶司、気難しそう。中肉中背、少々白髪、スーツの上に白衣)


吉野「新薬の臨床データ、まとめておいた。こちらだ」

翡翠「ありがとうございます」

吉野「ところで、今日は桜花に会ったかね」

翡翠「はい、さきほど。研修会までお送りしました」

吉野「全く困った娘だ。いつまでも将棋などにうつつを……」

翡翠「桜花さんは今、女流棋士として期待されていますから。それに良い気分転換になっているようですし」

吉野「わたしは将棋には疎くてな」

翡翠「女流5段昇格も間近と聞きます。頑張られているようです」

吉野「そうか。婚約の話は進めて良いのかね」

翡翠「はい、……父にも話しております」

翡翠は少し苦い顔をする。

吉野は翡翠の父銀之丞が婚約にあまり乗り気でないことを知っていて、わざと訊ねたのだと察したからだ。

翡翠「では、今日はお暇を」

翡翠はスッと席を立つと、一礼して室を出る。
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