課長のケーキは甘い包囲網
「どうしたんですか?」
ドアを閉めて、彼が後ろ手に鍵を掛けた。私の手を引くと、腕の中にしまった。ふわりと彼の香水の香りがした。
「そんな顔するなよ。いじめてるわけじゃないけど、お前と話す時間を作りたくて、つい、頼んじゃうんだよ」
「……え?」
そう言って、ぎゅっと私を抱きしめた。
「異動するとさ、お前とは本当に会えなくなる。いやもちろん、家では会えるけど。同じ会社でも建物の場所が違う。行き来はほとんどないんだ。だから会わないと思う。距離もあるし、忙しくなって帰りも遅くなる。お前が想像している以上に二人の時間は減ると思う」
そうだったのか。私、考えなしだったのかもしれない。
「誠司さん?」
「なんだ?」
「私わかっていなかったかも。そんなに会えなくなるんですね。そういえば、開発の人ってここで見たことないですね。書類が送られてくるくらいで、たまに課長が誠司さんと喧嘩に来てたくらいしか記憶にない。しかも半年に一回程度」