煙草の匂いとギターの音
2分くらいだろうか。しばらく経って彼はギターを弾くのをやめ、こっちに視線を向けた。
「ギター好きなの?」
急に話しかけられて私はビックリした。
「えっとはい。でもギター弾くところ生で初めて見ました。」
そう答えると彼は笑いながらいった。
「がちー?」
(引き笑いだ)
笑い方もそうだが、凄く特徴的な高い声で少し驚いた。
「興味あるなら弾いてみる?おしえてあげるよ」
「いいんですか!?」
「もちろん、ほら隣座りな」
少し躊躇したが私は彼の隣に座った。私にギターを渡すと彼は近づいてきた。
離れて見ている時は気が付かなかったが近くで顔を見てみるとメイクをしていた。
パッチリ二重でぷっくりな涙袋、長いまつ毛。その目に合ったメイクでとても魅力的だった。
それと微かに煙草の匂いがした。
(喫煙者なのかな)
「そういえば、なんて言うの?名前」
「佐久間翡翠、です。」
「翡翠ちゃんか〜。珍しいし可愛いね」
「え」
可愛い、そんなことを言われたのは初めてだったから少し照れた。
「俺は美桜っていうからみおくんとか美桜とか好きに呼んで」
上品で素敵な名前だなと思った。
「じゃあ、美桜さんって呼びます」
「さっそく教えるね」
「まずピックは曲げた人差し指の上にピックが乗り、それを上から親指で支えるイメージで持って」
「それから─」
美桜さんはギターの事を1から教えてくれた。ピックの持ち方、ストロークパターン、コードの抑え方
ジャジャーン
初めて弾いたギター、とっても楽しいと思った。それなのに、ギターの音があまりに耳に入ってこなかった。
隣から聞こえる美桜さんの声。その声ばかりに耳が傾いた。
目が合う度に鼓動が早く大きくなる。
初めての経験だった。ギターも、この感覚も
「そういえば、翡翠ちゃん門限何時?」
「18時30分です…」
「じゃああと30分もギター教えれるね」
無邪気な笑顔で彼はそう言った。
その瞬間私は何かに打たれたような気分になった。
美桜さんとは今日出会ったばかりでまだ何も知らない。それなのに何故こんなに胸が高まっているのだろうか。
(これってもしかして恋なのかな)