煙草の匂いとギターの音
色々教えてもらってるうちにあっという間に時間が過ぎていき気がついたら18時20分になっていた。
「もうこんな時間…」
「私そろそろ帰ります。今日はありがとうございました。」
まだ一緒にいたい そんな気持ちが湧き上がる。
もう会えないかもしれない、だけど私には連絡先を聞く勇気なんてなかった。
「こちらこそありがとうね。」
「あ、よかったら俺のSNSのアカウント教えるよ。俺バンドやってるんだけど、そのアカウントに色んな情報あるからさ。」
「え」
まさかSNSのアカウントを教えてくれるなんて思わかなかった。連絡先ではないがSNS交換だけで嬉しかった。
「フォロバしたよー。じゃあ気をつけて帰ってね」
「はい。今日は本当にありがとうございました。」
「またね。」
彼はそういいポケットから取り出した煙草を口に咥え火をつける。
(やっぱり喫煙者なんだ、可愛い見た目してるのに意外だなー)
涼しげな笑顔をした彼は、右手で煙草を支え左手で私に大きく手を振った。
私も手を振った方がいいのかな、と思ったが中々動かせなかったので会釈をした。
風が吹き辺りの草むらが囁くようにかさかさ揺れた。
紅掛空色の空に青い海が背後に見えている。その景色に、ギターを背負って煙草を吸う彼の姿が溶け込んでいる。
その姿は酷く美しかった。
時刻は16時25分─
走って家に帰ってももう門限には間に合わない時間だ。
それなのに私は彼から目が離せず、しばらく立ち止まってしまっていた。
私たちはじっと見つめあった。人の目を見るのが苦手な私でも何故か彼の目は見ることができた。
(なんでだろう)
「早く帰らないとー門限すぎちゃうよ」
彼の言葉を聞いてしまった、と思い私は前を向き足を動かした。