聖女がいらないなら、その聖女をボクの弟のお嫁さんにもらいます。そして王国は潰れ、ボクたちは幸せになりました、とさ。
「……ヨシュアが父の後を継ぐようになったら、ボクもヨシュアのサポートをしなければならないからなぁ……慣れたいけど、相変わらず慣れないや」
「なれなくても良いと思いますよ、リュシア様……『人間』と言うものは、そのような生き物。特に、『貴族』と言う存在は、まずくてたまらない」
「食べるなよ、リュー」
「食べる気はないです。食べるなら――」

 リューがふと、リュシアに視線を向けたので、彼女は首をかしげるようにしながらリューに視線を向けると、リューはそのまま黙ったまま、唇を舌で舐めるようにリュシアを見る。
 それを見たリュシアは驚いた顔を見せた後、少し頬を赤く染めながらため息を吐く。

「……お前、今」
「すみません、ちょっと欲が出ました」
「……ボク、お前を傍に置くのやめようかな」
「絶対に、何が何でも動きませんよ、リュシア様」
「そうだよなーお前もストーカー予備軍だもんなー離れたらついてくるんだろうなーきっと」

 前々から思っていたのだが、ヨシュアとリューの二人は性格がどこか似ているのではないだろうかと思いつつ、胃薬が少し欲しいなと思ってしまったリュシアだった。

 リュシアは再度、聖女と呼ばれているエステリアに視線を向ける。
 今回、この夜会は王族が開いた夜会のはずなのに、エステリアは確かこの国の王太子と婚約していたはずなのだが、何故彼女が一人なのか、リュシアには理解出来ない。

「リュー、王太子の婚約者なら、隣に王太子が居るはずだよね……どうしていないの?」
「……それをお聞きになりますか、リュシア様」
「え、ボク何か変な事を言った?」
「……ヨシュア様の事もありますが、一応エステリア様の事も調べておきました。実はこの国の王太子は――」

 リューが耳元で何かを言おうとした時、それは起きた。


「エステリア、僕は君との婚約を破棄する!偽りの聖女の君はこの国に必要ない!!」


「…………はい?」

 リュシアが目を見開き、驚いた顔をしながら突然声が響いた場所に視線を向けると、そこには一人の青年が胸を強調させているドレスを着ている若い少女を愛おしそうに抱きしめながら、エステリアを睨みつけてそのように発言している光景があった。
 確か、発言した男の存在の名は、この国の王太子であるオスカー・アストリアだったはずだ。
 しかも、エステリアが偽りの聖女と言う言葉に、この男は何を言っているんだろうと思いながら持っていた食べ物をその場に落としそうになった。

「……リュー、エステリアって偽物なの?」
「リュシア様はエステリア様が偽物に見えますか?」
「いや、めっちゃ輝いているから、偽物じゃないよね?明らかに聖女だよ聖女……寧ろ、あっちの胸を強調しているドレスを着ている女の方がどす黒いモノを感じるんだけど。え、魅了されてんの王太子?この国大丈夫?」
「……リュシア様、ヨシュア様がやばいです」
「……あ、ヤバ」

 隣に居たはずのヨシュアの顔が明らかにおかしい事に気づいたリューとリュシアは行動に出る前にヨシュアの身体を固定する。
 リューは後ろに回り、身体を固定し、リュシアはヨシュアの両手を鷲掴みしながら、今にも襲い掛かりそうにしているヨシュアを宥める。
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