桜ふたたび 前編

その日一日、テレビはマンハッタンの惨状を繰り返し報じていた。
地下のライフラインは破壊され、街は麻痺状態。
複数箇所で蒸気パイプが破裂し、多くの死傷者が出ている。

けれど、戒厳令が布かれた現地の情報は錯綜し、ましてや、ジェイの安否につながる手がかりは、どこにもない。

テーブルに両肘つき、額の前で指を組み、スマホに祈る澪の耳元で、誰かの声がした。

〈君が望むから、失うんだ〉

これは罰だ。誓いを忘れかけた罰。

──決して何も望みません。夢も見ません。どうか、彼を助けてください。

突然、着信音が鳴った。

澪はびくりと肩を震わせ、おそるおそる手を伸ばした。
右手で左手を抑えても、スマホを耳に近づける指の震えが止まらない。

〈遅くなった。電話をくれたんだね〉

駅の構内のようなざわめきの間に、ジェイの声が遠く近く聞こえる。

──どこからだろう。まさか、あの世へのターミナルだったらどうしよう。

呼吸がうまくできず、頭がくらくらする。
スマホを握りしめた手が硬直して、ガタガタと痙攣した。

〈どうした?〉

現実であって欲しい。
でも、確かめて否定されるのが恐い。
朝の夢のように消えてしまいそうで、声を発することさえおそろしい。
< 100 / 313 >

この作品をシェア

pagetop