桜ふたたび 前編

髪飾りの位置を直してやるジェイを、アレクは超常現象でも検証するような目で観察した。

──この男が、女に執着するのか? 気に入れば手に入れる。飽きれば棄てる。去る者は追わないナルシストが?

アレクは、ジェイの陰に隠れるように座る澪を、さりげなく鑑賞した。

美貌ではあるが、ジェイの交流関係を鑑みれば取るに足らない。プロポーションは少女と見紛うほど細い。
おとなしく柔順そうで、アバンチュールの相手としてはおもしろみがなさそうだ。

だがそれも、ジェイのような面倒くさがりには都合がいいといったところか。

──いや、やはりセックスか? 日本人の女は、そんなにいいのか?

BGMがムーディーなブルースに変わった。

アレクはここぞとばかりに腰を上げ、

『señorita. 一曲踊ってください』

プリンセスに仕えるナイトのような謙虚さで、優雅に澪の手を取った。
どうしたらいいのかとジェイをうかがう澪に、薔薇の微笑みを向ける。
『さあ、参りましょう』と、流れるようにエスコートする。

躊躇いながらも席を立つ澪に、アレクはしてやったりとほくそ笑んだ。

女の扱いにかけては、友人より上なのに、この間もおいしいところを横からかっさらわれてしまったのだ。
リベンジ成功と凱歌をあげかけて、アレクは臍を噛んだ。

ジェイは振り返りもしない。
ジェラシーなどと言う感情とは無縁の男だと、忘れていた。

しかし、近くで見ると澪は思いのほか美しい。
日本人は童顔が多いと言うし、ジェイにはロリコン趣味はないから、これで二十歳は超えているのだろうか?

白桃のように瑞々しい肌。鬱陶しいほど豊かな黒髪。美しいデコルテに、折れそうに華奢な腰。
香水とは違う、バニラのような甘い香りがする。

ダンスは不慣れだが、一生懸命なところがかわいい。
こんな妹がいれば、溺愛して思う存分甘やかしてやるのにと、二人の強烈な姉に散々可愛がられた(いじめられた?)アレクは、つくづく思った。
< 113 / 313 >

この作品をシェア

pagetop