桜ふたたび 前編

──これは……謝罪なのかな?
冷たく突き放されると、覚悟していたのに。

激情に任せた行為はこわかった。まだ、恐怖心は拭えない。
でも、そのことでジェイを軽蔑したり、嫌いになったり、どうしてもできない。

──彼は、母とは違う。理由もなく反省もない暴力を、振るう人じゃない。

それに、いつも颯爽とした彼が、しょんぼり反省している姿は、さっきまで凍えていた澪の心に、温度を与えていた。

ジェイは、己に誓うように言う。

「もう、二度と、澪を傷つけることはしない」

澪は、目を閉じ深呼吸を一つ。
それから、ジェイの隣に静かに腰を下ろした。
前屈みに首を横に倒し、彼の顔を覗き込んで、内緒話のように言う。

「では……今回だけは特別に許してさしあげます」

ジェイは目を瞠った。

澪の瞳にかすかな微笑が浮かんでいる。つい今し方、心ない行為に涙したと言うのに……。

──やはり澪は泉だ。あの瞳ですべての罪を浄化する。

ジェイは、龍王の宝珠に触れるように、そっと両手で澪の頬を包み、囁いた。

「Don't cheat on me(私を裏切らないで)」
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