桜ふたたび 前編
「澪がアクセつけるなんて珍しいやん」

澪はあわてて手を引っ込めたが、千世の反射神経の方が早かった。左手をがっしりと捕らえ、リングをためつすがめつ眺めている。

「きれいやねぇ、アクアマリン? ブルートパーズ? なんや○ルガリっぽいぃ、うけるぅ」

千世は爆笑した。

「ええやん、どこで見つけたん? 買うたん? 誰かに貰たん?」

矢継ぎ早の質問に、澪は何が何だか困惑して、思わず最後に頷いてしまった。

「うっそ、なにぃ、いつの間にそんなひとができたんよ〜」

「あの……、実はそのことで、話さないといけないことがあって……」

「やっぱりな! ついに澪も恋に落ちたか。おめでとう! うん、恋バナやね、ええよ、聞くよ」

「あのね、あの……わたし、ジェイと……」

肩を小さくするのと共に声も消え入りそうになって、千世は「何て?」と耳の後ろに手を当てた。

「あの……、その……、おつき……を……」

「え? 聞こえんって」

「ごめんなさい! わたし、ジェイとおつき合いしています」

一世一代の勇気を絞って告白したのに、相手は「喜んで損した」と言わんばかりの顔をした。
水を口元に、やれやれと言った口調で、

「澪ぉ、おつき合いっていう意味、わかって言ってる?」

ごっくん。

「ちょっとお知り合いになったくらいで、世間ではつき合うてるとは言いません!」

澪が真っ赤になるのを見ても、千世はまったくのあきれ顔で、

「だからぁ、デートしたり、手ぇつないだり、キスしたり、それなりにスキンシップがあって……」

いちいち小さく頷く澪に、さすがに千世は目をぱちくりさせ、数秒経ってから「え?」と一言、鳩が豆鉄砲を食ったような顔のまま、固まった。
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