桜ふたたび 前編
──これも地球温暖化のせいやろか?

千世は喉の渇きにワインを一気に飲み干した。

猛暑に寒波に干ばつにゲリラ豪雨に大洪水、さらに大地震に大噴火、地球全体がおかしいから、もし円山(まるやま)の桜が秋に咲いたって、鴨川にラッコが現れたって、きっと今夜ほど驚きはしないだろう。
何せこの澪が、あのラグジュアリーな男と、ステディだと告白されたのだ。温暖化のせいでプリンスの頭もどうかしてしまったに違いない。

──この澪が? 石橋を叩いたって渡らない澪が? 恋愛にとんと疎くてまともに男としゃべったこともない澪が? 恋バナにすぐ真っ赤になるくせに、プリンスとあんなことしたり? こんなことしたり……? いやぁ~! 

混乱した頭を写すように、千世はペスカトーレの中でフォークを廻し続けている。パスタの玉が皿いっぱいに大きくなって、またほどけていった。

──そりゃ元はと言えば、澪がナンパされたんやけど……。でも相手は天下のAXの御曹司。うちら庶民をマジで相手にするわけがないやん。

千世ははたと妄想を止め、首をかしげた。
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