桜ふたたび 前編
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ドアが閉まるや否や、燃えるようなブロンドのアフロが、セルリアンブルーの瞳を輝かせて、ハヤブサの如く駆け寄ってきた。

〝AXファンド〞は、AXのコーポレートベンチャーキャピタルだ。十年前に卒然とAXホールディングスから独立し、あっという間にグループの中核となった。

しかし、その実像を知る者は少ない。
M&Aやリストラクチャーの成功は、AXインターナショナルの功績として世に発信されるからだ。

中でもジェイが率いるチームは、別格の業績で常にAXを牽引しながら、その行動は謎に包まれていた。
厳重なセキュリティに守られ、アンタッチャブルな彼らを、AXでは〝サンクチュアリ〞と呼んでいた。

『フランクフルトにサーカスを張る。ハンドラーはレオ、ニコは先にベテルギウスを片付けてから参戦してくれ。彼はレディにポワゾンを嗅がされたようだ。10分後に、プロキオンの5%を放って、狂犬たちの食欲を見学させてやれ』

コツコツと廊下に響く靴音と同じ速さで、ジェイは暗号めいたことを淡々と指示していく。

ふたり並ぶと背格好も歩き方もよく似ていて、髪の違いこそあれ、後ろ姿なら間違える者もいるだろう。

『デッドラインは?』

『exactly 6pm.』

ふたりは、同時に腕時計の秒針までを確認し、同時にうなずいた。

『Yes, sir‼』

悪戯小僧のような笑顔で敬礼し、ニコはハヤブサのように去っていった。
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