桜ふたたび 前編

「澪って、ネガティブなんか、脳天気なんか、ほんま、ようわからんなぁ」

千世はあきれたように言うと、「うちはかなわんわ……」と呟いた。
フォークの先を見つめながら、皿の上で無駄に動かしている。その口元に、むずむずと堪えきれない笑みがあった。

「実はなぁ、うち、プロポーズされてん」

「えええっ?」

今度は澪の方が驚かされた。
これまで恋するたびに逐一報告があったのに、いきなりプロポーズ発表とは。

「名前は武田脩平。お兄ちゃんの親友の従弟で、大学がこっちやったから、ようみんなでキャンプとか遊びに行ってたんよ。
彼なぁ、初めて会うたときから、うちのこと好きやったんやて。初めてって、うちまだ高校生やん?」

そんな身近に赤い糸が……。

「うち、思たんやけどな、やっぱおんなは、自分だけを一途に想うてくれる人と一緒になるんが、いちばん幸せなんちゃうかな。惚れるより惚れられる?」

自らの恋愛感をまったくひっくり返すことを言う。

澪はうんうんと頷いて、

「おめでとう!」

抱きつきそうな勢いで祝福した。

──よかった。ほんとうによかった。

千世を祝福する気持ちと同じだけ、とうに千世の気持ちが他の人にあったことが嬉しかった。
最悪、恋か友情かと迫られたら、ジェイを諦めるしかないと覚悟していたのだ。

もちろん、それで彼女を裏切ったことが帳消しになるはずもない。
けれど、友人でいたいと請うのなら、ペナルティーは払わなければならないと覚悟していた。

でも、今を生きる彼女は、過去などまったくこだわらない!

千世は喜色満面に笑って、すぐになにか思い出したように、深刻な表情を作った。
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