桜ふたたび 前編
クリスマス・イブのディナーは斎戒の名残で魚と野菜が中心。肉に飢えたルナは、朝からリクエストした分厚いローストビーフに澄まし顔でフォークを突き刺しながら、
『二日前、ローマの友人の結婚パーティーで、アレクに会ったわ。東京で面白いものを見たんですって』
ジェイはまったく興味のない顔をした。
とっておきの情報で兄をからかってやろうとでも思っていたのか、ルナはちっと小さく舌打ちした。
そんなことだと思っていた。
幼なじみのアレクは三ヶ月ほど前に澪と顔を会わせている。澪が迂闊にも彼に唇を盗まれたものだから、人生初のジェラシーというイタイ経験をした。
彼のことだ、そのときのことを面白おかしくルナに吹聴したのだろう。
だから、澪を日本人だと紹介もしていないのに、ルナは最初から日本語で話しかけた。欧米人にとって、顔で東アジア圏の国の弁別をするのは難しい。
ルナは視線を右上に、少し考えて、今度は澪に爽やかな笑顔を向けた。
「ミオ、私の部屋へ行きましょう。お願いがあるの」
「はい」
澪の快い即答に、ルナは兄に向かってこれならどうだとばかりに鼻先を上げた。
ジェイは乱暴に新聞を捲った。
昨夜、極限の自制心で堪えたのに、まだお預けを食わせる気か。
澪という女は、臆病で慎重なくせに、不測の事態にはまるっきり迂闊だ!
『二日前、ローマの友人の結婚パーティーで、アレクに会ったわ。東京で面白いものを見たんですって』
ジェイはまったく興味のない顔をした。
とっておきの情報で兄をからかってやろうとでも思っていたのか、ルナはちっと小さく舌打ちした。
そんなことだと思っていた。
幼なじみのアレクは三ヶ月ほど前に澪と顔を会わせている。澪が迂闊にも彼に唇を盗まれたものだから、人生初のジェラシーというイタイ経験をした。
彼のことだ、そのときのことを面白おかしくルナに吹聴したのだろう。
だから、澪を日本人だと紹介もしていないのに、ルナは最初から日本語で話しかけた。欧米人にとって、顔で東アジア圏の国の弁別をするのは難しい。
ルナは視線を右上に、少し考えて、今度は澪に爽やかな笑顔を向けた。
「ミオ、私の部屋へ行きましょう。お願いがあるの」
「はい」
澪の快い即答に、ルナは兄に向かってこれならどうだとばかりに鼻先を上げた。
ジェイは乱暴に新聞を捲った。
昨夜、極限の自制心で堪えたのに、まだお預けを食わせる気か。
澪という女は、臆病で慎重なくせに、不測の事態にはまるっきり迂闊だ!