桜ふたたび 前編
「あんた、何ですぐ言わへんの? いけずやなぁ」
何て間の悪い口だろう。見ず知らずを貫くつもりが、中途半端に挫折。これでは女将に恥をかかせただけ。意地が悪いと言われても仕方がない。
「ごめんなさい……」
うなだれた耳元で、(やれやれ)と小さなため息を聞いたような気がした。
「誤解です」
彼は言った。
「先ほど、troubleにあっていたところを彼女に助けられ、こちらで食事をすると聞いて便乗させていただきました。思いがけず美しい女将に会えて、luckyでした」
ちっとも心のこもっていない声ですらすら言って、女将にきれいな瞳を向ける。
女将が少女のように赤らめた頬を両手で挟むのを見て、慎一があきれ顔をした。
「お世辞に決まってるやないか、ええトシこいて」
澪はあきれるより感心してしまった。よくそう巧言が繰り出せるものだ。
「彼女とはほんの少し言葉を交わしただけでしたし、あなたの発音が美しかったので、言い出すtimingをなくしてしまったのでしょう。悪意はありません。──そうだね?」
流暢に同意を求められ、澪は呆気にとられた。
ぎりぎり嘘は吐いていない。
だからって、そんなふうに庇われたらかえって変な誤解を招きかねないし、それに、まるで自分には非がないみたい。こちらが言い出せないのを、からかっているようにも感じたのに。