桜ふたたび 前編
《Buon giorno~!》

ルナは歌うように挨拶をする。
すぐ後ろから、さらにハイテンションなアレクが、陽気なカンツォーネを口ずさみながら入ってきた。

椅子を引くアレクに朝の会釈をした澪は、しげしげと見つめる視線に首を捻った。
アレクは笑いながら何かを言っている。
通訳を求めてジェイに目を向けたけど、気づかなかったのか、新聞を読み続けている。

ルナがにっこりと笑った。

「朝まで眠らせてもらえなかったのかって」

とたんに澪は首まで真っ赤になって、カップを倒してしまった。
白いニットに、珈琲の色が染みてゆく。

『つまらないことを訳すな』

ジェイは、駆け寄ったインパラから素早くウエスを奪い取ると、あたふたする澪の服を拭いながら、

「火傷しなかったか? 着替えておいで、シミになる」

「ごめんなさい……」

がたがたと椅子を鳴らし逃げ去る姿に、アレクとルナは声を上げて笑っている。

ジェイは再び新聞を開きながら、低く言った。

『ルナ、澪をからかうのはよせ。彼女は単純なんだから』

『そうね、今も、〈何でわかったの?〉って顔してた。彼女、気づいてないのね。熱烈なhickey(キスマーク)に』

ジェイが睨む。
ルナはふふッと笑うと、運ばれてきた朝食に、あからさまに物足りない顔をした。

彼女は健康意識が高いニューヨーカーだが、大食漢なのはイタリア人の血だろうか。
それでも太らないのは、過酷なキャンプ生活で消耗してしまうからだ。
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