桜ふたたび 前編
明日の天気でも聞くように、不気味なことをさらりと尋ねるものだから、澪はすぐに意味が取れず、首を捻った。
「……あまり美しいと、この世のものとは思えなくて、かえって禍々しさを感じる──って、ことかな?」
「ふ~ん、さすが元美術部。澪は発想が芸術的やわ。
でもなぁ、桜が毎ねん毎ねんきれいに花を咲かすんは、死んだ人の業や欲を養分にしてんやて、お祖母ちゃんが言うてたえ」
「それは……こわいね」
「そやから、京都には立派な桜が多いんよ」
千世は、「うふふっ」と、自虐と得意が混じった笑みを浮かべ、スマホを帯の間にしまって歩き出す。
山吹色の結城に、縞の博多帯。萌葱の半襟を差し色にした大胆なコーディネート。大柄な彼女ならではモダンにすっきりと着こなして、茶道・華道・日舞と和装の機会も多いから、さすがに所作も熟れている。
千世とは中学・高校の同級生で、社交家で友人も多い彼女と、特に親しくしていたわけではなかった。
ただ、転校生という〝よそ者〞に最初に声をかけてくれたのが彼女で、一人でいることが多かった澪を、なにかと輪の中に引き入れてくれたのも、彼女だった。
卒業してからは疎遠になっていたけれど、三年前、同窓会の幹事だった千世に、ほぼ強制的に出席させられて以来、こうしてたびたび誘われるようになった。
(本人曰く)「家にいると退屈で死にそう」な千世にとって、恋人もいなければ、遊び仲間も趣味もない澪は、きっと声をかけやすい存在なのだろう。