桜ふたたび 前編
“お久しぶりね、ジェイ”

ジェイと頬を寄せ合っているのは、シルビア・ノッテ。ミラーノ在住のファッションデザイナー。
ペリドットの瞳、亜麻色の髪はプードルのようなカーリーヘアで、細い鼻筋をそばかすの帯が横切っている。長身で砂時計のようなボディラインは、成熟した色香を漂わせていた。
今夜のイブニングドレスは大胆なフラワープリント。ハートカットの胸元から豊満なバストをぎりぎりまで覗かせていた。

アレクとは大学時代からの恋人で、互いの家族も公認のカップルだ。
それが、些細な行き違いから(アレクが長い旅に出ている間に)別の男性と事実結。男児をもうけたが、結局三年で破局した。

現在は、アレクとステディな関係を続けながらも、いざ結婚となると、のらりくらりと答えを先延ばしていた。

“彼女は澪” 「澪、アレクのパートナーのシルヴィだ」

澪は自分を鼓舞するようにうんと頷くと、

「Piacere.Mi chiamo Mio.(初めまして、澪です)」

頬を赤らめ一生懸命な挨拶に、シルヴィは相合を崩している。

“まあ、可愛らしい”

シルヴィは日本アニメの大ファンだ。〈かわいい〉に目がない。この様子なら大丈夫だろうと、アレクはジェイの腕をぐいっと引っ張り肩を抱え込んだ。

“クリスが来ている”

“そうか”

“シェリルも来ている”

“そうか”

“そうかって、お前!”

口を開きかけたアレクの肩を一つ叩いて、ジェイは何事もなかったかのように澪を伴って歩き出す。
その後ろ姿に、アレクは呆れた。
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