桜ふたたび 前編

──それにしても趣味が悪すぎる。

ジェイのことだから仕事がらみだろうが、妙齢のギラギラした下心が丸見えだ。あんなのに手をつけたら最後、結婚するまで追いかけられるのは目に見えている。

澪は、というと、ただ呆気に取られて、ジェイに蛇のように絡む女を見つめている。

アレクは警告の咳払いをしようとして、咽せた。ジェイがメイファと連れだって歩き出したのだ。

《おい!》

《澪を頼む》

ジェイは肩越しに言い残すと、振り返りもせずに人垣の中へ消えて行く。

《どういうつもりだ?》

アレクは思わず声に出して独白した。

ただでさえ心許ない澪を、嵐の防波堤の上に放ったらかすような、危険極まりない状況に置いてゆける神経が、理解できない。

憤るアレクの前に、次の高波がやってきた。

[Bonsoir.]

森を抜けるビオラのような美声に、アレクは万事休すと頭を抱えた。

シェリル。
トゥヘッドのストレートヘアと、グレーの瞳を持つエルフのような美女。
パリ出身のスーパーモデルにして、その神秘的なオーラから、シャンソン歌手、詩人としても活躍している。

モノトーンのボディコンシャスなスレンダーラインは、九身頭のしなやかな曲線美でなければ着こなせまい。腰骨までのサイドスリットから、透けるような白い美脚が覗いていた。
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