桜ふたたび 前編
〈Amare, Mangiare, Cantare(アマーレ・マンジャーレ・カンターレ)〉
誰かを愛し、美味いものを食べ、気分のおもむくまま歌う。それがアレクの人生哲学。

アレクにとって、仕事も人生を楽しむための一つの要素でしかない。
嬉しいときには笑い、哀しいときには泣き、腹が立ったら怒る。何事にも縛られず、自由であること。それこそが彼の才能の源なのだ。

むろん、彼も経営者であるから、世間に迎合せざるを得ないことも多い。

だからこそ、常に心をニュートラルにしていなければ、新しい発想は生まれてこない。人生を愉しまなければ、想像力も働かない。

その点、ジェイは、あまりに多くのものに縛られすぎている。

重いハンデを課せられて、全力疾走を続けるのは、自らの命を削っているようなものだ。
このままでは、いずれ体力が尽きるか、精神が焼き切れることは目に見えていた。

いや、すでに壊れかけていたのかもしれない……。

だが、手遅れになる前に、澪が彼の足枷を外してやるだろう。

〈あなたにはアルフレックスを捨てられない〉

ルナの言葉が過ぎった。

──賭けてもいいぜ、ルナ。

アレクは挑戦状を叩きつけてから、直ちに前言を撤回した。──ルナと賭けて、勝った試しがない。

《お前も何か趣味をもて。仕事が全てでは人生つまらん》

《そうだな》

アレクは驚いた。いつもなら冷笑するはずだ。

《なんだ? やけに素直だな》

ジェイはワイングラスを揺らして、光の反射を楽しむふりをしながら言った。

《小鳥を飼うことにした》
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