桜ふたたび 前編
「では、澪はどうしたいんだ?」

子どもの駄々につき合うように、やれやれと覗き込んだ瞳に、何か決意めいた凄みを見て、ジェイは怯んだ。

「あなたとは、もう……、終わりにしたい」

すぐには言葉の意味を計りかねて、ジェイは『What?』と聞き返した。

「私と別れると言っているのか?」

澪が即座に否定すると疑わなかったのに、彼女は黙している。
彼女の無言という返答が、何を意味しているのかは知っている。
まさしく晴天の霹靂だった。

「なぜ?」

手を握る力が強まって、澪が反射的に逃れようとしたことが、よけいにジェイの神経を逆立てた。

「理由は?」

ジェイは己の感情を制御するように、声を抑えて言った。
だが、澪の唇は固く閉ざされたままだ。
彼の努力は呆気なく吹き飛んだ。

『Don't be stupid!(ふざけるな)』

ジェイは椅子を鳴らして憤然と立ち上がった。

怒りのやり場を捜すように、廻れ右をすると大股に窓辺へ向かう。
烈しくなった雪を前に、しばらく苛々と組んだ腕の上で指を叩いていたが、やがてくるりと踵を返して、再び澪に向き直った。
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