桜ふたたび 前編
その写真は、穴が空くほど観た。
あんな濃厚なニューイヤーキス、ふたりの関係が一目瞭然だ。
それでも、合成写真だとか昔の写真だとか、言い訳できたのに、澪が目撃していたとなればジェイも否定できまい。
「千世……クリスを生で見たことある?」
千世は、髪が乱れるほど勢いよく首を横に振った。
「吃驚するくらいきれい。本物のヴィーナスかと思っちゃった。
シェリルは知的で、エルフの女王みたいだった。
それから、中国の大金持ちのお嬢様は、ジェイと結婚するって言ってた」
「何、感心してんの!」
千世は両手でテーブルを叩いた。
「フィアンセに恋人に結婚相手って、わけわからへん!
パパラッチにつけ狙われてるのにも気づかないで、あんなきわどい写真まで撮られて!
結局、セレブの三角関係、四角関係? いや、五角か? とにかく! 上流階級の恋愛ゲームに、パンピーの澪を巻き込んだだけやないの!」
澪は、叱られている子どものように肩をすくめてうなだれる。
──まだまだ言い足りないけど、澪を責めてもしゃーないか。それより、これからのことや。
千世は、鼻から息を吐いて、肩の力を抜く。
首を右に左に折って骨を鳴らすと、やわらげた口調で尋ねた。
「で、どうすんの?」
千世は一人先走って答えを出し、諦めと哀れみを含んだ顔で続ける。
「まぁなぁ、ハリウッド女優相手に、どう逆立ちしたって敵うわけないしな……。
そやけど、最後に一発、ガツンとかましてやりなよ?」
「かますって?」
「そやかて、澪だけが悪者にされて、このまんま泣き寝入りやったら、悔しいやない」
苦笑して首を静かに振る澪に、こちらの狭量を嗤われたような気がして、千世は面白くない。
お人好しなのか、ええ格好しいなのか。昔から澪は、自分が受けたダメージを隠す癖がある。
小動物は、標的にされることを恐れて、怪我や病気を潜める習性があるらしいけど、澪の張り合いのない言動も過剰な自己防衛本能なのだろうか。
──そうやって、言いたいことも言わへんから、ええこちゃんぶってって、女子から煙たがられるんよ。