桜ふたたび 前編
ジェイは憮然とした。
雪解けを待って、雪崩に遭遇した、不幸の一言ではすまされない。

「そんなに私が許せないのか?」

「……もう疲れました」

「何に?」

澪は握られた手をつるりと抜くと、その指先をこめかみに当てた。

「あなたとは住む世界が違い過ぎます」

「だから、澪がこちらにくればいい。私のそばにいれば、必ず守るから」

「守られてばかりでは苦しいんです」

「つまり、私が澪を疲れさせていると言うのか?」

「違います」

「もう愛していないということ?」

「愛してます。愛しているからもう無理なんです」

「全く理解できない。だいたい、たかがキスぐらいで子どもみたいに騒ぐなよ。澪だってアレクとキスしたじゃないか、二度も」

「あ……」

「それとも、過去の女性関係がそんなに罪なのか? 部屋に男を連れ込むよりも?」

言い過ぎだと自覚しながら、言葉が止まらない。

「私が信じられないと言うのなら、澪はどうなんだ。私を裏切らないと誓ったくせに、陰では不適切な関……けい……を……」

澪は声を失ったように口をぱくぱくと動かしている。
どうしたのかと見つめるジェイの前で、彼女は頭を抱えて打ち伏した。

「澪!」
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