桜ふたたび 前編
「目が覚めた?」
「……」
澪は朦朧と白い天井を見つめている。
「詳しい検査が必要だから、二、三日、入院することになった」
言いながら、ジェイは椅子を引っ張って腰を下ろす。
「栄養も足りていないそうだ。いい機会だから、ゆっくり休むといい」
聞いているのかいないのか、澪は反応を見せない。
再びゆっくりと瞬きをすると、力ない目をジェイへ向けた。
「クリス……は?」
「クリス? ああ、知ってたのか。幸い足の骨折くらいで、一ヶ月ほどで退院できるそうだ」
「顔は?」
「顔? そう言えば、額のこのあたりにプラスターを貼ってたかな?」
「……そうですか……」
「他人のことより自分の心配をしなさい。何度も連絡したのに、どうしてたんだ?」
澪はやおら視線を流した。
「すみません。ご迷惑をおかけして……」
ジェイは澪の手を取ると、その甲を撫でながら微笑んだ。
「退院したら、一緒にNew Yorkへ行こう。もう澪をひとりにはしてはおけない」
今度こそ〝Yes〞と言うだろうと、自信を持っていたのに、澪はゆっくりと大きく頭を振る。
ジェイは嘆息した。意固地にもほどがある。
「では、澪はどうしたいんだ?」
子どもの駄々につき合うように、やれやれと覗き込んだ瞳に、何か決意めいた凄みを見て、ジェイは怯んだ。
「もう……、終わりにしたい」
すぐには言葉の真意を計りかねて、ジェイは『What?』と聞き返した。
「私と、別れたいと言っているのか?」
澪が即座に否定すると疑わなかったのに、彼女は黙している。
彼女の〝無言〞という返答が、何を意味しているのかは知っている。
まさしく晴天の霹靂だ。