桜ふたたび 前編

3、永日

その女性は、胸に白い箱包を大切に抱え持っていた。
スラリとした長身をパンツスーツの喪服で包み、ただでさえ目を引く美貌なのに、空港職員に先導され、二名の喪服の男性を随従した姿に、到着ロビーの空気が息を呑んだように静まり返り、続いて波のようなざわめきが起こった。

気丈に振る舞う横顔が、ひどく疲れて見えるのは、丸二日に及ぶ長旅のせいだけではないだろう。
目が合うと、強がりな表情に一瞬の隙ができて、涙色を嫌ったのか清風のように微笑んだ。

「ありがとう、来てくれて」

ルナは箱包を片手に抱いたまま、黒いワンピース姿の頬に頬を寄せた。その腕に力強さが欠けていた。

「元気でよかった」

アイスグレーの瞳に見つめられて、澪の胸に甘い痛みが走った。

枕崎の家に、突然ルナから電話があったのは、三日前のこと。どうして所在がわかったのかと驚く澪に、〈CIAに知り合いがいるの〉と、ルナは本気か冗談かわからぬことを言った。

二週間前にスーダン・ダルフールのジェベルマラ山地で発見された遺体が、DNA型鑑定の結果、MSFの医師・吉川伊織さんと確認されたとニュースを見て、果たせるかな訃報に、澪は暗然と言葉を失った。

しかもまさか亡骸の発見者がルナだったとは、澪も彼女の口から明かされるまで知らなかった。
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