桜ふたたび 前編
華やかなタイムズスクエアを過ぎたとき、電話が鳴った。
〈澪さん? 柏木です〉
一瞬、現実ではない場所からかかってきたような錯覚を起こして、澪はぼんやりとしてしまった。
「あ……、ああ、柏木さんですか? ご無沙汰しています……」
〈よかった、携帯がつながって。ニューヨークのお天気はどうですか?〉
日本はまだ明け方のはず。なのに、柏木の声は明快で、少し熱を帯びている。
「え? なぜ、わたしがニューヨークにいることをご存知なんですか?」
〈先日、ルチアーナ・アルフレックスさんからご連絡をいただいて。個人情報を勝手にお伝えするのは申し訳ないとは思いましたが、枕崎のお宅の電話番号をお教えさせていただきました。その際、渡航の手配を依頼されましたので〉
「……枕崎のことまで、どうして?」
〈京都に戻られたとき、病院へ薬を取りに行かれましたでしょう? 院長が不在で、枕崎の病院への紹介状は、後日郵送したと。あの病院は、妻の実家なんです〉
そういえば、柏木は京都の大学出身で、奥さんの実家が北山にあると言っていた。
〈それで、先ほどルチアーナさんから連絡がありまして、ミスター・アルフレックスはすでに退院されているので、直接ホテルへ向かうようにとのことです〉
なぜか嬉しそうな柏木の声に、澪は訊ねていいものか迷った。
〈あれ? 遅かったですか?〉
「いえ……あの……その、彼のホテルを知らなくて……、柏木さん、ご存じですか?」
〈えええっ?〉