桜ふたたび 前編
❀ ❀ ❀
晩春の夜の気配が、優雅な紫の羽を広げて静かに街に降りはじめた頃、トリコロールの大旗が目印の小さな店先で、澪と菜都は行き合った。
「やっぱりね」
待ち合わせ時間より10分早い。予想通りと、菜都はにぃっと口端を引き上げた。
小柄で、シャープな輪郭によく合う黒のショートボブ。目尻がきゅっと上がったアーモンドアイ。
目力が強いせいか、少しとっつきにくい雰囲気がある。
菜都とは、以前勤めていた会社で知り合った。
彼女の方は妊娠を機に一年もせず辞めてしまったけれど、それからも季節ごとに近況を伝え合う仲が続いている。
目端が効いて肝が太い彼女は、一児の母ということを差し引いても、ひとつ年上の澪より、ずっと足が地に着いていた。
「こんばんわ、芽衣ちゃん」
「こん・ばん・わ、みーたん」
ママとおそろいのアメカジに、リボンを結んだポニーテール。
もう幼稚園児だというのだから、子どもの成長は本当に早い。しばらく会わないうちにいっそう賢くなって、輪郭もはっきりしてきた。
子リスのような瞳で見上げる少女に、嬉しさと愛おしさと、同時に胸に詰まるような痛みを感じて、微笑みが少し陰った。
菜都に悟られまいと、澪は店内へ顔を向けた。
店は、テラコッタを基調とした気さくな雰囲気。窓のカフェカーテンと黄色いマーガレット柄のテーブルクロスが、南仏のビストロを思わせる。
京野菜を使った料理が手頃なプリフィクスで愉しめると、女性に人気の店らしく、大通りから外れた住宅街にありながら、今夜もテーブルのほとんどが、賑やかな会話で埋まっていた。
晩春の夜の気配が、優雅な紫の羽を広げて静かに街に降りはじめた頃、トリコロールの大旗が目印の小さな店先で、澪と菜都は行き合った。
「やっぱりね」
待ち合わせ時間より10分早い。予想通りと、菜都はにぃっと口端を引き上げた。
小柄で、シャープな輪郭によく合う黒のショートボブ。目尻がきゅっと上がったアーモンドアイ。
目力が強いせいか、少しとっつきにくい雰囲気がある。
菜都とは、以前勤めていた会社で知り合った。
彼女の方は妊娠を機に一年もせず辞めてしまったけれど、それからも季節ごとに近況を伝え合う仲が続いている。
目端が効いて肝が太い彼女は、一児の母ということを差し引いても、ひとつ年上の澪より、ずっと足が地に着いていた。
「こんばんわ、芽衣ちゃん」
「こん・ばん・わ、みーたん」
ママとおそろいのアメカジに、リボンを結んだポニーテール。
もう幼稚園児だというのだから、子どもの成長は本当に早い。しばらく会わないうちにいっそう賢くなって、輪郭もはっきりしてきた。
子リスのような瞳で見上げる少女に、嬉しさと愛おしさと、同時に胸に詰まるような痛みを感じて、微笑みが少し陰った。
菜都に悟られまいと、澪は店内へ顔を向けた。
店は、テラコッタを基調とした気さくな雰囲気。窓のカフェカーテンと黄色いマーガレット柄のテーブルクロスが、南仏のビストロを思わせる。
京野菜を使った料理が手頃なプリフィクスで愉しめると、女性に人気の店らしく、大通りから外れた住宅街にありながら、今夜もテーブルのほとんどが、賑やかな会話で埋まっていた。