桜ふたたび 前編
❀ ❀ ❀
ブライアント・パークの木漏れ日がさらさらと降り注ぎ、ふたりの笑顔に澄んだ水際のような光の模様を描いている。
まだ蕾の固い桜の下、緑の椅子を並べて、ジェイと澪はデリで仕入れた巨大なパストラミサンドを半分に分け合った。
ビジネス街の中心にぽっかりと、時間が止まったような緑の空間。
青空にエンパイア・ステイト・ビルが威容を誇ってそびえ立ち、おびただしい高層ビルに360度取り囲まれているのに、そこでは木々がさやぎ、鳥が囀り、花々が微笑んでいる。
目前に林立するビル群のなかには、AX本社ビルもある。
アメリカのシンボル・自由の女神にも、エンパイア・ステイト・ビルから眺めるニューヨークの鳥瞰図にも、華やかなブロードウエイや五番街にも、澪はまったく興味を示さなかった。
ただ、〈ジェイが働いている場所が見たい〉と、彼女は言った。
「いろんな人がいるんですね……」
澪は感じ入ったようにあたりを見回している。
葉陰のチェアでは、ビジネスマンが気難しい顔でノートパソコンを叩き、チューリップに囲まれたベンチでは、本を膝に老作業員が居眠っている。芝の広場に寝そべった恋人たちが、愛を囁き合っているその横で、女たちはサンドイッチ片手に愉しげに井戸端会議。モデル風の美女は、黙々とヨガのポーズをとっている。
みな、肌の色も、髪の色も、瞳の色も、それぞれだ。
澪の髪に、白い蝶がひらりと止まった。
澪は一瞬、吃驚した顔をしたが、すぐに息をひそめ、蝶の気がすむのをじっと待ってやっている。
──ここは温かい。
弱肉強食のこの街にも、こうして人々が憩う日常がある。
花の香りに春を知り、陽の熱さに夏を知り、葉の色づきに秋を知り、風の冷たさに冬を知る。
こんなに近くにありながら、ジェイの瞳はその存在を、これまで留めたことがなかった。
ブライアント・パークの木漏れ日がさらさらと降り注ぎ、ふたりの笑顔に澄んだ水際のような光の模様を描いている。
まだ蕾の固い桜の下、緑の椅子を並べて、ジェイと澪はデリで仕入れた巨大なパストラミサンドを半分に分け合った。
ビジネス街の中心にぽっかりと、時間が止まったような緑の空間。
青空にエンパイア・ステイト・ビルが威容を誇ってそびえ立ち、おびただしい高層ビルに360度取り囲まれているのに、そこでは木々がさやぎ、鳥が囀り、花々が微笑んでいる。
目前に林立するビル群のなかには、AX本社ビルもある。
アメリカのシンボル・自由の女神にも、エンパイア・ステイト・ビルから眺めるニューヨークの鳥瞰図にも、華やかなブロードウエイや五番街にも、澪はまったく興味を示さなかった。
ただ、〈ジェイが働いている場所が見たい〉と、彼女は言った。
「いろんな人がいるんですね……」
澪は感じ入ったようにあたりを見回している。
葉陰のチェアでは、ビジネスマンが気難しい顔でノートパソコンを叩き、チューリップに囲まれたベンチでは、本を膝に老作業員が居眠っている。芝の広場に寝そべった恋人たちが、愛を囁き合っているその横で、女たちはサンドイッチ片手に愉しげに井戸端会議。モデル風の美女は、黙々とヨガのポーズをとっている。
みな、肌の色も、髪の色も、瞳の色も、それぞれだ。
澪の髪に、白い蝶がひらりと止まった。
澪は一瞬、吃驚した顔をしたが、すぐに息をひそめ、蝶の気がすむのをじっと待ってやっている。
──ここは温かい。
弱肉強食のこの街にも、こうして人々が憩う日常がある。
花の香りに春を知り、陽の熱さに夏を知り、葉の色づきに秋を知り、風の冷たさに冬を知る。
こんなに近くにありながら、ジェイの瞳はその存在を、これまで留めたことがなかった。