桜ふたたび 前編
「好きな人ができた?」
「まさか!」
自分の声の大きさに驚く澪に、菜都はお冷を口に、しれっと言う。
「恋をすると瞳がおしゃべりになるって、あれ、ほんまやわ」
「ほ、ほんとにそういうんじゃないの。ただ……この間、ちょっと……、外人さんと、食事したなぁ……って思って」
「外人? 誰かの知り合い?」
「え、えっと、それは……」
目を泳がす澪に、菜都はつと怪訝な目を向けた。
「男?」
ちょうどそのとき、料理が運ばれてきた。
菜都は、キッズプレートに喜ぶ芽衣の首元に、ナプキンを掛けてやりながら、
「つまりナンパされたんや? 外国人に?」
「と、友だちも一緒だったしね」
聞いていないのか、からかっているのか、菜都は食いつき気味に、
「で? どんな人?」
「どんな? ……アメリカに住んでいて、仕事で日本に来たらしいけど」
「日本語は?」
「日本人より上手なくらい。なのに、話せないふりしたりして……悪趣味なのよ」
「へぇ~、悪趣味なんや。それで?」
「それでって?」
「顔とか、性格」
性格と言われても、一度会っただけだ。
印象に残っているのは、アースアイと、それから──。
にわかに甘い香りに包まれたようで、 胸の奥がほのかに熱を帯びる。
赤面した顔を隠そうと、澪は蛤と京筍のオードブルにナイフを進めながら言った。