桜ふたたび 前編
そのまま堂々巡りの葛藤を繰り返すうちに、小一時間は経っただろうか。
澪はふと顔を上げ、扉へ首を向けた。
静かだ……。
忍足でドアに近づき、音を立てないように慎重に引く。
わずかな隙間から覗くと──ジェイはソファに足を投げ出して、横になっていた。
クッションを背に敷いて、肘掛けにもたれ、両手を頭の下に組んで、目を閉じている。
考え事でもしているのかと思ったけれど、いつまで経っても、微動だにしない。
澪はほおっと息を吐いた。
体からも、心からも、一気に力が抜けた。
彼は最初から、ベッドを澪に譲り、ソファで寝むつもりだったのだ。
それを勝手に邪推して、うじうじ悩んでいたなんて、自分が滑稽でならない。
澪は、ベッドルームからブランケットを一枚、そっとジェイの体に掛けた。
「おやすみなさい」
小さく呟いて、部屋の灯りを落とす。
少し疲れた横顔が、静かに闇に沈んでいった。