桜ふたたび 前編
「いつもの合コンメンバーらがいはってな。ホワイトデーの夜に、一月の合コンに誘ったうちの後輩とカレが、麩屋町の和食フレンチに、仲良う腕組んで入って行くの見たって話してたんよ。〈藤川にバレたらえらいこっちゃ〉って。
本人、耳ダンボで聞いてるっちゅうの!」
「ハハハ」と渇いた笑い声を上げるから、どうリアクションすればいいのか、澪は困じてしまった。
会ったことはないけれど、確か名前はタカスギさん(それは前の彼氏だっけ?)。
俳優の何とかに似ていて、自然にレディーファーストができるスマートな人だと、天にも昇る調子で初デートの報告があったのはふた月ほど前のこと。バレンタインには金沢旅行に行ったと、上機嫌で土産ももらった。
「そやしな、帰りに呼び出した」
千世が仁王立ちに立ちはだかる、迫力ある映像が目に浮かぶ。決して高慢でも勝ち気でもないけれど、腹に溜めては置けない質だ。
「そしたら──」
赤い和傘のガーデンパラソルの下で足を止め、両指を絡めて科を作り、澪に向かって上目遣いに目をぱちぱち。舌っ足らずのアニメ声で、
「でもぉ、次の合コンで偶然彼と再会してぇ。元々本命は私やったって言われてぇ……。うふっ♡」
そのまま笑顔がフリーズし、不気味な一拍のあと、頬肉がぶるっと震えた。
「カノジョがいるのに、合コンに行くか⁈」
──そっち?
千世は、小石でも蹴るように歩き出す。上前が返って、鮮やかな柿色の八掛が、マタドールのムレータ(布)のように翻った。
「それにあいつな、ホワイトデーの日は出張やて、嘘ついてたんよ。嘘つきは泥棒のはじまりや。あの店かて、うちが紹介したったのに、他の女連れて行くやなんて、最低!
あんなかっこつけ、あざとかわいこぶりっ子にくれてやったわ」
澪は、白い足袋の爪先に、遠慮がちな息を吐いた。
千世の恋の終わりはいつもあっさりしていて、エレガントが〝キザ〞に、博識が〝知ったかぶり〞に、話し上手が〝チャラい〞に代わった挙句、
〈なんか思うてたのと違う〉。
そして、決まって最後にこう宣言する。
〈次こそ、運命の赤い糸を見つけたる!〉。
起き上がり小法師のようなたくましさ。