桜ふたたび 前編
あの嵐の翌朝──
空気中の塵も、心の迷いも、吹き飛ばしたような快晴のもと、東京駅へ向かうリムジンを止めて、ジェイが澪を連れて入ったのは、銀座のハイブランドショップだった。
仕事で立ち寄ったものだとばかり思っていたのに、案内されたのは煌びやかなVIPルーム。
指輪を試着させられて、当惑しているうちに、いつの間にか別の商談が成立していたのだ。
冗談にしてはきつすぎる。
断固拒否して、懇願して、食い下がる澪に彼は言った。
〈約束の印に〉
〈約束?〉
〈澪に会いに戻ってくる〉
ふいに体の芯が疼くのを感じて、澪は左手を胸にあて、そっと指輪を握りしめた。
あの夜、澪は生まれて初めて、心と体が墜ちてゆく瞬間を知った。
唇がふれ合ったときの、甘く痺れるような感覚。彼の息づかい、声、肌の温度。そのすべてから蕩けるような官能が生み出され、快感が大きなうねりとなって澪を呑み込んだ。
熱くて、苦しくて、切なくて、もどかしくて……。
やがて熟した果実が耐えきれなくなったように内奥から弾け、めくるめく快感にいくども自分を見失ってしまった。
今、ここに存在する自分は以前と同じ貌なのに、まるで新しく生まれ変わったように瑞々しい。
澪は甘いため息をついて、静かに目を閉じた。
瞼を閉じても、彼の姿は視えていた。