桜ふたたび 前編
「クリスティーナ・ベッティ?」
澪は特集見出しにある人物の名を声にした。
澪のリングと同じブランドのアンバサダーを務め、シャンプーのCMなどでも見かけるハリウッド女優。芸能ニュースに疎い澪でも知っている。
「ちゃう、ちゃう、こっち!」
人差し指で突かれた写真に、澪は視線を移した。
それは、国際映画祭のプレパーティーでのワンシーンだった。レッドカーペットの上、ワインカラーのイブニングドレスで微笑むクリスティーナ。贅肉のない白い腕をタキシードの男性の腕に絡め、見つめ合っている。
目を凝らした澪は、「あ!」っと、思わず声を上げてしまった。
「な? そやろ? ここ、読んで、ここ、ここ」
文字を辿りながら、澪は駭然として目眩を起こしそうになった。
「主演女優賞ノミネートのクリスティーナ・ベッティ。フィアンセはAXグループ会長の御曹司、ジャンルカ・アルフレックス氏」
「で、でも、似ているだけかも……」
声を震わせる澪に、千世はちっちっちっと舌を鳴らし、人差し指を左右に振った。
「テラー(窓口業務)の記憶力をなめてもろては困るわ。うちは一度見た顔は間違えへん」
彼女は人の容顔を覚えることにかけては天才的だ。とくにイケメンは。
それに確かに、柏木は彼を〝ミスター・アルフレックス〞と呼んでいた。