桜ふたたび 前編

問題はそこではない。
真の問題点をどう説明すればいいのか。穏便に、相手を不快にさせずに……。
考えれば考えるほど、言葉に詰まる。

その沈黙を、無言の譴責だと取ったのか、ジェイはまだ乾かない髪を邪魔くさそうに掻き上げ、言った。

「なるほど、Datingにはresumeが必要か。みんな、私以上に〝Gianloci Arflex〞を知っているらしいから、失念していた。他に質問は?」

困ったという気持ちが勝って、首を振る力も弱々しくなる。

〝バイアウトファンド〞やら〝デーティング〞やら、ちょくちょく挟んでくる英語。わかったようでよくわからない。
釣り書きでも要求していると、誤解されている感じがする。

──やっぱり、こちらから切り出すしかないか……。

澪はスカートをギュッと握りしめ、青筋立った手の甲に視線を落としたまま、うわずった声を絞り出した。

「す、すみません……わたし、ジェイさんに……フィアンセがいるなんて、知らなくて……」

ジェイは呆気にとられた顔をして、まじまじと澪を見た。

「Fiancé? 私に? 誰?」

「……クリスティーナ・ベッティさん」

「Big deal.(それは凄い)」

ジェイは大げさに驚いたふりをして、

「それも雑誌に載っていたのか?」

澪は、泥沼に沈み込むように、顎をさらに深く引いた。伏せた瞼がふるふると震えた。

ジェイはミネラルウォータを一気に飲み干し、たっぷりと沈黙した。

弁明のためでも、釈明のためでもなく、澪を責めるような、痛ぶるような、ちくちくと刺すような沈黙。
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