桜ふたたび 前編
「クリスはItalia出身の、昔からの友人だ。それをパパラッチが大げさに書き立てたのだろう?
私は一度も婚約したことはないし、結婚の予定もない。本人に確かめもせず、低俗な記事を鵜呑みにするとは、私は信用されていないらしい」
冷静な口調だから逆にこわい。反対に説教されているみたい。
その他大勢の澪のことなど、このまま捨て置いてくれていいのに。なぜムキになるのか、彼の真意が理解できない。
たたたみ掛けるようにジェイは言う。
「澪に逢いたくて、京都まで来たのに。こんなことで君の気持ちが冷めてしまったとは、残念だ」
「冷めてなんか──」
いません、と言いかけて、澪は目を瞬き言葉を飲んだ。
今の今まで、白紙に戻そうとしていたのに、なぜ、告白するはめになっているのだろう。
「それなら──」
言うが早いか腕を引っ張り上げられ、ベッドの軋みとともに、澪は抱きしめられていた。
「やっと逢えた」
打って変わってしみじみとした口調。
その低く響く声に、怒りや苛立ちはない。ただ、ひとつの到達点にたどり着いた安堵があった。
嬉しいとは思う。胸の温もりにからだはときめいている。
だけど、澪の心はまだわだかまっていた。