桜ふたたび 前編
「私は婚外子だ。生後すぐにgenovaに引き取られ、アルフレックス家の実子として祖父の元で育てられた。四歳でLondon、それからSwissのboarding schoolで学んだから、New Yorkの両親と会ったのは数度。だから、Harvard Universityに合格したとき、喜んで家を訪ねた。だけど、私を見る母の目は、他人を見るように冷たかった……。その直後だった。兄から真実を聞かされたのは」

ジェイは、寂しさと苦しみと諦めの混ざった、卑屈な笑みを浮かべた。

「彼女の愛を得るために、私にできることは、彼女が愛するビジネスを発展させることだけだ。成功し続けていれば、彼女は私を必要としてくれる。虚しい悪あがきだな」

──ああ、彼もひとりなんだ。

いつも彼の瞳の奥に見つけてしまう悲しい色は、凛冽な樹氷の森のような魂の孤独のせいだ。
家族の愛を知らない彼は、愛されたいともがきながら絶望している。だから人を信じられず心を氷で防御してしまった。

淋しくて、哀しくて、切ないほど愛おしくなって、澪は思わずジェイを抱きしめていた。抱きしめて、抱きしめて、少しでも胸に吹き続く寒さを防いであげたかった。

「私も澪も不器用だな。愛を求めれば求めるほど空回りする。私は愛して欲しいと強引になり、澪は嫌われたくないと臆病になった」

ふたりは互いの隙間を埋めるためキスを交わし、胸の奥の氷を溶かすため熱い体を求め合った。まるで己の存在を確かめるかのように──。
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