桜ふたたび 前編
〈人殺し!〉
罵声が耳をついて、澪ははっと戦いた。
夜な夜なその声に苛まれ、己の罪深さに怯えて震えた。
今でもときどき夢に見ては、うなされる。
「澪」
名前を呼ばれ、澪は微笑みをつくった。柚木に悟られてはいけない。
「実は──」
言いかけて、柚木は言葉を飲み込む。
不思議そうに見つめる瞳を怯れるように、席を立った。
「人を待たせているから、もう行かんと……。今日は会えて、ほんまに良かった。ほな……また……」
向けられた背中に、澪は思わず息を呑んだ。
想いを残したその後ろ姿に、最後の夜が重なったからだ。
忘れてはいけない。どんなに時が経とうとも、赦されない罪はある。
今、彼と再会したのも、浮かれた自分への戒めなのだ。
あの日、澪は誓ったはずだ。
幸せを望んではいけないと──。