忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―
 人の少ないカフェに入った。

 向かい合って座る。

 飲み物が運ばれてきても、どちらも手をつけなかった。

「…………」

「…………」

 先に口を開いたのは幸也だった。

「この前は、ごめん」

 亜美が顔を上げる。

「……え?」

「俺、感情的になった」

「…………」

「いきなりあんな聞き方されても困るよな」

「違います」

 亜美は首を振った。

「私が……何も言えなかったから」

「…………」

「ごめんなさい」

 幸也は少し黙った。

「今日はちゃんと話したい」

「……はい」

「責めたいわけじゃない」

 幸也は一度、視線を落とした。

「この前は、丈と亜美ちゃんに何があったのか。そればっか考えてた」

 亜美の指先が強張る。

「でも」

 幸也が顔を上げた。

「俺が聞きたいの、もうそこじゃない」

「…………」

「昔、何があったとか、いつからだったとか。もうそこじゃないんだ」

「じゃあ……」

「これから」

「……これから?」

「うん」

 まっすぐに見つめられる。

「亜美ちゃん、これから丈とどうしたいの?」

「…………」

 胸が大きく鳴った。

「もう会わない?」

「…………」

 答えられない。

「亜美ちゃん」

「…………」

「もう丈とは会わないって、言える?」

 言えばいい。

 たった一言。

 もう会わない。

 そう言えばいい。

「…………」

「言えない?」

 亜美は俯いた。

「……はい」

 幸也の眉が寄る。

「なんで」

「…………」

「なんで言えないの?」

 少し強くなった声に、亜美の肩が揺れた。

 幸也はそれを見て、口を閉じる。

「……ごめん」

「…………」

「怒りたいわけじゃない」

 声が落ちた。

「でも、分かんないんだよ」

 亜美は膝の上で指を握った。

「俺と付き合ってるんだよね?」

「……はい」

「俺のこと好き?」

 その問いには迷わなかった。

「好きです」

 幸也の目が揺れた。

「じゃあさ」

 少し掠れた声。

「もう会わないって言ってよ」

「…………」

「それだけ言ってくれたらいいから」

 幸也が好き。

 失いたくない。

 なのに。

 頭に浮かんだのは。

『もう会わない』

 あのときの言葉だった。

 また。

 会えなくなる。

「……無理…です…」

 幸也の表情が止まった。

「……無理?」

「…………」

「丈と会わないのが?」

 亜美は小さく頷いた。

「なんで」

「…………」

「亜美ちゃん」

 言葉を探す。

 でも、上手く言えない。

「会わない…なんて…できない…」

「…………」

 幸也の顔から表情が消えた。

「これからも?」

「…………」

「これからも会うってこと?」

 亜美は唇を噛んだ。

「……はい」

 幸也が椅子の背にもたれた。

 しばらく何も言わない。

「……マジか」

 小さく漏れた声。

 片手で口元を覆い、目を伏せる。

 それから、もう一度亜美を見た。

「俺と付き合ってても?」

「…………」

「それでも会う?」

 答えたくない。

 この答えを口にしたら、何かが終わる。

 それでも。

「……はい」

 幸也の目が大きく揺れた。
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