忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―
「なんでだよ」

「…………」

「俺のこと好きなんだろ?」

「はい」

「だったら、なんで?」

「…………」

「俺、そんな無茶なこと言ってる?」

 声が強くなる。

「俺と付き合ってて、それでも他の男とは会うって言われて」

「…………」

「俺、どうすればいいの?」

「ごめんなさい……」

「謝ってほしいんじゃない」

 思わず大きくなった声に、亜美の身体がびくっと揺れた。

 幸也は顔を背ける。

「……ごめん」

「…………」

「また怒ってる」

 額に手を当てた。

「違うんだよ。怒りたいわけじゃない」

 少しの沈黙。

「怖かった?」

 亜美が顔を上げる。

「……え?」

「この前」

「…………」

「俺に知られて」

 喉が詰まる。

「……はい」

「何がそんなに怖かったの?」

「…………」

 目の奥が熱くなった。

「嫌われるのが……」

「俺に?」

「……はい」

 涙が一つ、落ちた。

「幸也さんに嫌われるのが、怖かったです」

「…………」

「知られたら……もう好きでいてもらえないかもしれないって」

 声が震えた。

「それが、怖かった」

 幸也は黙っていた。

 やがて、苦しそうに息を吐く。

「じゃあ、なんで離れられないんだよ」

「…………」

「俺に嫌われるのがそんなに怖かったのに」

 幸也の声が掠れる。

「それでも、丈と会わないとは言えないの?」

「…………」

 言えない。

 その言葉だけは出てこなかった。

「俺じゃ駄目なの?」

 亜美が顔を上げた。

「…違います」

「じゃあ何が違うんだよ」

「…………」

「俺がいるじゃん」

「…………」

「何かあったら俺に言えばいいじゃん」

 亜美の涙が頬を伝った。

「相談だって聞くし、話だって聞く」

「…………」

「俺じゃなくて、丈じゃなきゃ駄目なことがあるの?」

 答えられなかった。

 幸也への気持ちと。

 もう一つの気持ちは違う。

 それは分かっている。

 でも。

 幸也がいるから、もういらない。

 そんなふうには思えなかった。

「……分からないです」

「…………」

 幸也は亜美を見つめた。

「でも、丈と会うんだろ?」

「…………はい」

 その瞬間。

 幸也の顔から力が抜けた。

「……そっか」

「幸也さん……」

「じゃあ無理じゃん」

「…………」

「俺、無理だよ」

 怒った声ではなかった。

 だから余計に怖かった。
< 398 / 426 >

この作品をシェア

pagetop