佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋
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辰巳との逢瀬で、心も体も満たされていたしおりは、休み明けは、いつも以上に張り切ってミーティング前の掃除に励んでいた。

「しおりさん、ご機嫌ですね」

「そう、いつも通りよ」

そう言いながら、鼻歌が流れる浮かれ具合に、仲の良い後輩の吉崎 香織は、ピーンときたらしく、ニヤニヤとテーブルを拭くしおりの横まで駆け寄り、耳打ちする。

「彼氏さんと会ったんですね」

頬を染め口元に人差し指を立てるしおりに、香織は、テンションが上がる。

「うわー、いつぶりですか?遠距離恋愛でしたよね!あっ、それで、昨日はお休みとったんですね」

我が社は、社内恋愛を禁止してはいないが、辰巳との付き合いは公にはしていない。系列とはいえ、アテンダーとして働く辰巳は有名人で、彼の仕事に少しでも影響することは、避けたかったしおりは、相手が辰巳だとは誰にも教えていない。

「たまたまよ。彼もこっちに来ていて、会えただけなの。忙しい人だから、なかなか会えないわ」

しおりと辰巳は、恋人同士だが、外でデートなんてしたこともない。これまで、辰巳がこちら側へ仕事で来た時に、しおりの部屋で数時間過ごした後、次の仕事先へ向かうという流れが定着している。
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