佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋
確証はないが、姿と着ているスーツから、先に階段を登る男性だったのだろうと推察した。
「えっと、まさか、毎日、あの階段を登り降りしてる?」
「はい。あそこを通るか、目の前の広い車道をぐるりと回るしか街まで行けませんよね⁈」
「…あはは。ここに住んでいて知らない人がいるとは思わなかった。勘違いしたお詫びに、楽な道を教えてやるよ」
「えっ、他にも道があるんですか?教えてください」
必死の形相で、男の前まで駆け寄るしおりに、男は、形相を崩し笑う。
「おもしれー、必死だなぁ」
「必死にもなります。あの階段、疲れた体にはきつくて、どうして、こんな場所を選んだんだろうって後悔するんです。でも、ここから見下ろす街並みが好きで、引っ越しは考えられないんですよね」
「あっ、俺も。夜景が綺麗だよな」
「そうなんです。海上花火が上がる夏もサイコーですよね」
「確かに、見ごたえあるよな」
「で、楽な道って、教えてください」
「あぁ…階段登ってくる前にコンビニあるだろう」
「はい」
「その裏に、この前の道に繋がる遊歩道があるんだ。なだらかな坂道で、少し遠回りになる。だが、あの階段を使うより、楽だぞ」