佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋

一方のしおりは、予感はしていた。

だから、絶対に辰巳の前で泣くまいと心を強く踏ん張って、涙を堪え別れを受け入れた。

別れたくなんてなかった。

1番目になれなくてもいいとさえ思うほど。

何年も片思いして、勇気を出して告白した日を思い出す。

戸惑いながら、しおりの押しに負けて付き合うことに頷いた辰巳。

多分、気がつかないふりをしていただけで、しおりは、薄々、わかっていたのだ。

辰巳の心に、誰かいるのだと…

それでも、彼女になれて幸せだった。

会えた回数や時間は少ないけど、一緒に過ごせた時間は、付き合っていないとできなかった。

しおりが思うほどの愛情はなかったのだろうが、辰巳なりに愛情を向けてくれて幸せだった時間は、嘘ではない。

しおりに嫌われようと、冷たく引き離す事を選んだ辰巳の姿に、すがりついたり、泣き喚いたりして、引き留めたとしても、彼の気持ちが揺らぐことはないとわかったからだ。

だから、別れを受け入れたのだが…

やはり、1人になると感情が溢れ、泣きたくないのに涙が溢れてくる。

こんな場所で泣いたらダメと、タクシーを拾いマンションまで涙を堪え、3階の自分の部屋の鍵を開けようとした時、隣のドアが開いた。
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