佐藤 しおりの幸せ探し〜揺れる恋
「どうせ階は同じだ。部屋の前まで持っててやるよ」
「いいんですか⁈お言葉に甘えます」
にこりと笑うしおりを前に、男は、今まで感じたことのない甘酸っぱい感情に、目を見張った。
そこへ、エントランスで佇んでいた人影が2人を捉え、歩いてくる。
「しおり」
「あっ、辰巳さん」
嬉しそうに手を振るしおりの声のトーンが高くなり、恋する女の顔になった。
それを見た男に湧き起こる複雑な心情に、男も戸惑うほどだ。
男同士、ぺこりと頭を下げて、様子を伺っているとはしおりは気がつかない。
「辰巳さん、出張ですか?」
「あぁ、明日あっちに戻ることになったから、しおりに会いたくて。連絡入れておいたんだけど、その様子じゃ気がつかなったようだな」
チラッとしおりの横に立つ男に視線を向ける辰巳に、男は、空気を読んだ。
「彼氏が来たなら、この重い荷物持ってもらえよ。じゃあ、俺は先に行くわ」
「…あ、ありがとうございました」
荷物をしおりではなく、辰巳に向けて差し出して、受け取った瞬間、後ろを振り返ることなく男は、エントランスの向こうへ入って行った。
「だれ?」
「同じマンションの方です」
「ふーん」
不機嫌そうな声のトーンに、さすがのしおりも慌てた。