シャロームの哀歌
 祭りの準備で活気づく街をイザクと歩く。
 荷物を持ってくれるおかげで、今日は普段よりたくさんの買い物をすることができた。

「いつもすべてひとりでやっているのか? 洗濯も食事の用意も子供たちに手伝わせればいいじゃないか」
「子供たちにはきちんと学校に行かせたいですし、今はシャロームの祭りの前ですから」

 読み書きができれば、この先仕事にあぶれることはない。ある程度の年齢になったら、子供たちは孤児院を出て行かなくてはならなくなる。

「子供たちのためですもの。イザク様のようにわたしももっと頑張らないと」
「ミリに比べればわたしは大したことはやっていない」
「いいえ、イザク様の援助が無かったら、孤児院自体立ち行かなくなります。わたしにできるのは体を動かすことだけですから」

 それに忙しい方が何も考えなくて済む。目の前の雑事に追われる最中(さなか)は、都合よくミリから思考を奪ってくれた。

 ミリは戦争で犠牲となった村のたったひとりの生き残りだ。

 焦土と化した故郷。火の海に飲まれ死んでいった家族たち。
 何もかもが一瞬で焼き尽くされた。

 輝く未来に生きる人々の中で、ミリだけが未だ戦禍に取り残されたままだった。

 もうすぐ戦争が終わった日がやって来る。祭りが行われるのも、訪れた平和に感謝を捧げるためだ。

 浮かれ立つ街並みを、ミリはどこか遠くのことのようにぼんやりと眺めていた。
 それでも笑顔を保っていられるのは、となりを歩くイザクのお陰だろうか。

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