シャロームの哀歌
 通りすがりに男たちの会話が、ふとミリの耳に入ってきた。

「俺も戦地に赴いたが、あの時の(メレフ)の采配は実に見事だった」

 ざわつく心とは裏腹に、ミリの足がその場に止まる。

「いや、なんといっても賢人(ハハム)の立てた戦術だ。あれだけ長引いていた戦いを一瞬で終わらせたんだ。賢人こそがこの(いくさ)の最大の功労者と言えよう」
「もっともだ。我が軍に犠牲を出さずして敵を殲滅(せんめつ)したのだからな。勝利に導いたのはやはり賢人だろう」

 酔った様子の男たちは饒舌(じょうぜつ)に言葉を並べ続ける。
 勝利を得るために、ミリの村は生贄(いけにえ)にされたのだ。皆にとってはちっぽけな犠牲でも、あの村はミリの生きる世界そのものだった。

 それ以上は聞いていられなくて、ミリは街道をひとり駆け出した。

 五十人もいない小さな集落だった。
 だがあそこには長い間受け継がれてきた確かな営みがあった。
 それが老いた者から年端の行かない子供までもが、一瞬でむごたらしく焼き殺されてしまったのだ。

「ミリ……!」

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