死神?・・は・・・私の・・・?
「なあ、麗香。これからのことなんだけど・・・君ももう30半ばになる。そろそろ子供を作らないか? もうギリギリだろ。」
「えっ?」
「イャか?」
「・・・」
「ここ数年、お父さんが亡くなってから忙しかったし、君もあんな事故にあった。これからは君も仕事をセーブして、なんならやめても構わない。子育てをしてゆっくり暮らさないか。」
「・・・」
「何か心配事でもあるのか?」
「あの・・・私もうそういうことは・・・子供作るつもりもないから。」
「はっ? 何言ってるんだ。後継ぎはどうする?」
「別に後継ぎは直系でなくてもいいんじゃないですか? 子供がいたとしてもその子に運命を背負わせるのもかわいそうですし・・・」
「君がそんな考えだったとは・・・驚いた。」
「・・・ごめんなさい。私、もうあなたとは一緒に居たくないです。今日も本当は来たくなかったけど、お店予約しているっていうから断ったらお店に迷惑かけちゃうし・・・だから・・・これからは今日みたいなこと必要ないです。こんなプレゼントもいらない・・・」
麗香は突如感情的になってネックレスを外した。
「ちょっと、何言ってるんだよ。待ってくれよ。俺が麗香に何かしたか?」
麗香は亨の言葉に呆れ、思わず睨んだ。
「胸に手を当てていただければわかることですよね。」
「何言ってる。何もないぞ。」
「ずっと・・・ずっとあなたは私を騙していた。私は裏切られていた。私は全てを知っています。」
― 目撃もしましたからね・・・あんなもの見せられて・・・
― しらばっくれる気?・・・
「何だ・・・何のことを言っている?」
「私の口から言わせるのですか?」
「言ってみろよ。」
亨も言葉を荒立てた。
麗香は目を閉じ、一度息を吐いてから亨の目を見据えて言った。
「亡くなられた林田副婦長と不倫していましたよね。同じ日に夜勤をして、食堂となりの休憩室で抱き合ったり、出張と偽って泊りに行ったり・・・私は知っているんです。私と結婚する前から付き合っていたらしいじゃないですか。」
麗香は静かに低い声で言い切った。
「・・・そんなのはウソだ・・・何を根拠に・・・」
「私にはいろいろ教えてくれる人がいるんです。いまさら見苦しいですよ。」
「ちょっと待て。麗香・・・ちょっと訂正させてくれ。確かに林田君と不倫はした。それは謝る。でも少しだけ違うんだ。理由があるんだ。」
「いまさら弁解していただいても・・・」
「でも、言わせてくれ。まず、君と結婚する前には付き合っていない。声を掛けられたことは確かだ。その時林田君は心臓の動悸がする、不整脈かもしれないって相談されたんだ。病院の人には話さないで欲しいと言われたから、心臓外科の友人のいる病院を紹介した。検査の結果、心臓疾患が見つかり薬で様子を見ることになった。その後もずっとそのことでは相談に乗っていた。君と結婚をしたのはそのすぐ後だ。結婚後、林田君はひっきりなしに相談を持ち掛けたり、夜勤を合わせたりしてきた。それに、彼女は旦那さんからDVを受けていて、その傷を見せられ、その相談にも乗った。すると間もなくして彼女は離婚することになったと言った。離婚が成立すると、今度は僕に“あなたが離婚した方がいいって言ったのだから、私は離婚したのよ。私の寂しさを紛らわして、責任取って”、とせがまれた。そうやって彼女の罠にはまっていった。抜けようともがけばもがくほど、エスカレートしていった。そのうちに“はやく別れて”と言い始めた。そんなことするわけがない、もうこういう事はやめようと何度も言ったが無駄だった。彼女の心臓は徐々に悪くなっていき、薬の量が増えた。完全に治すには移植しかないということだった。すると、彼女は、“移植はしない。もう死ぬ覚悟だから私はやりたいことをするわ”と言って、さらにおかしくなっていった。そんな時に麗香の事故が起きた。」
「それで亨は私の頭に血栓をわざと残したのね。」
「いゃ、わざとではない。場所が悪かったから取り切れなかった。手術中もいつもと違って手が震えた。家族の手術なんかするべきでないとその時思い知らされた。でも手術が終わって血栓が取り切れなかったことを彼女が知ると、“ちゃんと血栓残してくれたのね、うれしい”と言って・・・“これで私は院長夫人だわ”って高笑いしてた。・・・君が目覚めて再検査したら血栓が無かったときにはさらに大変だった。“どうにかして君を殺せ”と言ってきた。僕は恐ろしくなった。そうしたら君が階段から落ちそうになった。もう彼女の仕業だと確信して、彼女に詰め寄ったらあっさり“そうよ”って笑った。もう、この女早く心臓病で死んでくれって思ったよ。そうしたら・・・本当に死んだ・・・それは恐ろしかった・・・こんなことはあってはいけないって思ったよ。どんなことがあっても僕は医者なんだから死んでくれなんて思ってはいけないって・・・」
「亨・・・」
「麗香・・・本当にごめん。もう絶対浮気はしないから、君を大切にするから・・・」
「・・・いきさつはわかりました。でも・・・直ぐには受け入れられない。私、当分あなたと距離を置きたいので実家に住みます。」
麗香はそう言うと席を立って、花束もネックレスもテーブルに置いたままレストランを後にした。
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