血の味のする恋を知る



用事を済ませて部屋に戻ろうと手洗い場を出て廊下を歩く。その途中で見知った気配を感じてぴたりと足が止まる。部屋に早く戻りたいけれどこのまま真っ直ぐに向かえば遭遇してしまう。かと言え回り道になると他の人に会ってしまう可能性があるわけで。


結局考えたのは一瞬で諦めてこのまま部屋に向かうことにする。どうせ会うなら結果は変わらない。


少しすれば案の定、兄と…あれは確か従兄弟だっただろうか。わたし個人と他の親類と交流はほぼないので正直なところ顔はぼんやりとしか認識していないし名前も朧げだ。出先で会ったら絶対に気づかないだろう。


ただし目の前にいる数人はよく兄と一緒にいるところを見かけるのでなんとなく見分けがつく。名前はわからないが。


そのまま何事もなく通れるはずもなく声をかけられたので仕方なく足を止めて顔を伏せる。一瞬視界に入った顔は嫌らしく、嗜虐心で歪んでいて化け物と言われるわたしにでさえ醜いと思った。


ぺちゃくちゃと浴びせかけられる悪意を右から左に流しながらも言葉の切れ端を察するに、どうやら外から賑やかな声が聞こえていたのは家の誰かがお茶会を開いたらしく、今日は親族が結構な人数招かれているらしい。


それで普段は見慣れない彼らもいるのか。普通にお茶会と他の親族と交流を深めればいいのにわざわざわたしのところに来るなんて、余程お茶会がつまらないのか、それとも自らの欲望を満たすのが優先なのか。どちらにせよ運が悪い。




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