血の味のする恋を知る

◇そして廻りだす


◇◇◇



ぼんやりと、上から言われて取った連休を薄暗い埃と黴の匂いがする自室で過ごす。何をするでもなく、ただただ呼吸を繰り返した。遠くから聞こえる笑い声は明るく楽しそうでこことの格差がいっそ滑稽だ。


いつもならば部隊で昼食を食べている時間だろうか。ただ栄養補給を目的とした味気のないものだけれど、身体を作ることも必要なことのひとつとしてあそこは希望すれば三食出るのだ。身だしなみを整えるための簡易な入浴場もある。


そういう意味では部隊の方がわたしの生活は人として整っているのだろう。この家ではわたしの食事は何も出てこないし、入浴なんてさせてもらえないから、みんなが寝静まった頃にひっそりと盥を借りて身体を拭いている。魔法が使えるから水じゃないだけましだ。


空腹は感じているが部屋を出るには面倒ごとが多くて億劫だ。数日何も口にしなくてもこの身に宿るマナが自然と身体を回復してくれるので生命活動に問題はない。まぁ、飢えは感じるのだけれど。水は魔法で出せるので喉が渇いた時はそれを飲めばいい。


ただしそれ以外にも生理的な欲求はあるわけで完全にここにこもっているのも土台無理な話だ。


今は声が外から聞こえているから遭遇する可能性も低いだろうと考え、それでも気配を薄くしながら手洗い場に急ぐ。この部屋から一番近いのは使用人の使うものだけれど気にしない。わたしもこの家の一員のはずなのに慣れとは怖いもので使用人の中でももはや気にする人はいなかった。


むしろあからさまに見下している使用人の方が多い。使用人は雇用主に似ると言われるけれど、その最もたるものという感じで、流石に暴力に合ったことはないけれど陰口や存在を無視されることなんて日常茶飯事だ。




< 10 / 29 >

この作品をシェア

pagetop